第2話
4回『もぅ〜うまいが潰れたーっ!』


「もぅ〜うまいが潰れたーっ!」

ぼくのお城に
ドッカァァーーン!
と現れたのはご主人さまでありました。

 
   「なっ、なにっ!」

ドアを開けるなり
強盗のようにさけんだご主人さまに
カナメは困惑気味です。
 
  「もぅ〜うまいがっ!
うまいが、
うまいがああああああああっ!」
  「落ち着いてください!
ナツミサン、何かあったんですっ?」
  「ふにゃふにゃふにゃふにゃ
ふにゃにゃにゃぁぁぁぁーーーんっ!」
   「人間の言葉でしゃべれっ!」
 
猫語のようですが、
ご主人さま流ですので
ネコの僕でもさっぱりであります。

   「あのね、あたしね、
アルバイトしているの」
  「それは知ってます」
  「ステーキ屋で、
『もぅ〜うまい』って店なんだ」
  「知らないなあ。
チェーン店ですか?」
  「んにゃ、個人店。
商店街のはずれにあるんだよ。
カナメちゃん、おいでよ。
サービスするよ」
  「えっと、潰れたんですよね?」
   「もぅ〜うまいが
つぶれたあああーーーーっ!
  「分かりましたから、
最初に戻らないでください!」
  「『もぅ〜うまい』ってね、
ステーキを食べて
あまりの美味しさに
感動して泣いてる
牛さんの看板が
飾ってあるんだよ。
あ、こんなイラスト」


ご主人さまは
一枚のチラシを見せました。

 
  「共食いだと思わない?」
  「だからなんです?」
  もぅ〜うまいが
つぶれたああああーーーっ!
   「それはいいからっ!」
  「わたしどうしよう、
このままだと、食べていけない」
  「家賃も払えませんね、
つーか、溜まってるぶん
さっさと払え」
  もぅ〜うまいがああっ!
  やかましい!
  「この先
どうしよう……」
  「新しいバイト、
探せばいいじゃないですか」
  「あそこ、
個人の店だから
気に入ってたんだよね」
  「チェーン店じゃ
ダメなんですか?」
  「融通きかないんだよ。
マニュアルうるさいし」
   「ナツミさんって、
絶対マニュアル通りに
やりませんよね」
  「怒られてばっかだったよ」
  「想像つきます」
  「あと、『うるさい』って
よく言われた」
  「でしょうねぇ……」
  「もぅ〜うまいは、
サラダバーがあるんだよ」
  「ステーキの店って
大抵ありますよね」
  「残ったサラダ
食べ放題だったっ!」
  「あー、
それで食べていけない、
だったんだ……」
  「まかないなんかも、
あったんですか?」
   「そんなのないない、
必要ないし」
  「必要ない?」
   「あたしね、
お客さんの残りモンのステーキ
食べるのが楽しみだったの!」
  食べるなーっ!
  「え? 食べるよ、あれ、ふつう、
もったいないじゃん」
  「ふつう、食べませんよ。
汚いなあ……」
  「国産和牛ステーキ500グラム
5000円を
半分以上も残す人って
意外といるんだよ」
  「それは勿体ない」
  「これは、
あたしへのプレゼントだと
喜んで食べるね!」
  「見知らぬ人の残り物は
食べたくないなあ…」
  「前にね、
大学の友達やってきたの。
たかーい国産牛頼んでおきながら、
たくさん残していったんだよ」
  「はぁ……」
  「ラクビー部なんだよ。
たくさん食うわけよ!
なのに残したの、
勿体ないよね!」
  「ラクビーだし、
男の人ですよね?」
  「もち」
  「残り物のステーキ食べてるって
話したことあります?」
  「あたし、色んな人に
それいってるから
あるかもしれない」
  「それ、わざと残したんですよ。
ナツミさんに食べて貰うために」
  そうだったのかーっ!
  「脈無しですね、
かわいそうに」
  「あのとき、
ビッグサイズのカツカレー
にチャレンジしたばっかだったから、
ゲロゲロに苦しくて
捨てるしかなかったよ」
  「ナツミさんのこと
好きになる物好きな男の人って
いるんだなあ」

なんでこんなのをと
呆れた目線を送っております。

 
  「あたしモテるよ?
おっぱいでっかいし!」
  「下心ある男性
限定じゃないですか」
  「そんなことないよ
あたしにコクってきた
男子って
十人を楽勝に超えてるもん」
  「なんで
こんなダメダメな
人を好きになるんだろう…?」
   「お姉さまはそのたびに
その胸か!
この胸なのかっ!
とわしづかみにしてくるんだよ」
  「その謎のお姉さまより
ナツミさんの方が
モテるんですね」
  「お姉さまは、
カナメちゃんぐらいの
おっぱいサイズなんだよ」
  「わたしぐらいって……」
  「お姉さまはビー玉おっぱい!
って言ったら、
殴られたことあるんだ」
  「それ、
わたしでも殴りたくなります」
  「まあまあ、
お姉さまに未来はないけど、
カナメちゃんは中一だから
これからおっきくなるんだよ」
  「ナツミさんに
お姉さまと呼ばれている人が、
なんだか、
かわいそうになってきました…」
  「そうだ!
あたしが、
おっきくしてあげよっか?」
   「どうするんですか?」
  この胸かっ!
この胸なのかっ!
  「お断りします」
  「なんで、
もぅ〜うまい
潰れちゃうの…?」
  「ナツミさんがやっていけた
店なんですし、
しょうがないんじゃないですか」
  「タマキチにも
カナメちゃんにも、
ステーキのおすそわけしようと
思っていたから残念だよ」
  「お客さんの残りものはいりません。
タマキチは
いいかもしれないけど、
ネコってステーキ食べるかなあ?」
  「食べるんじゃない?
このまえ、
部屋でピョンピョン飛んでたバッタ
食べてたし」
   「ちょっ、
食べないようにさせてくださいよ!」

なかなかの美味でした。

 
  「面接のときにね
なんで、うちで働きたいのかって
聞かれたんだ」
  「ナツミさんって、
ステーキの残り物を食べたいからって
正直に言いそうですよね……」
  「わたしのおっぱいが
牛並みだからですっ!」
  「って、言ったんだ」
  「理由になってないですよね……」
  「そしたら、即サイヨーされた」
  「そこ、
潰れて良かったんじゃないですか……」
  「店長、
あたしと話すとき、
おっぱいしか見ないんだよ」
  「ナツミさん、よく平気ですね」
  「触れたこともあるよ」
  「セクハラですか。
それで、
ナツミさんはどうしたんです?」
  やったーっ!
店長におっぱい揉まれたっ!
あたしのエネルギーは
充電完了したぜっ!
  「なんて、喜んでやったよ」
  「………」
  「店長、
奥さんにすっごく怒られていた」
  「ナツミさんって、
バカだけど大物ですね……」
  「だからカナメちゃん」
  「なんです?」
  「今月分の家賃、
免除して?」
  「しません」

そうは問屋が卸しません。



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