第2話
1回『な…なんなのこの人…』
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ご主人さまの家にて
世話をされるようになってから
早、二週間が経ちました。
ぼくはといえば、
少々背が伸びたような伸びてないような
ご主人さま曰く
「3ミリおっきくなったかな」
ぐらいの変化でありまして、
日常も、
寝て
食って、
昼寝をして、
食って、
なゴロゴロとした
相変わらずな生活を送っております。
「いっえーい!
おーれ!
おーれおーれおーっ!」
カチャ!
ユニットバスのドアが
開くな否や
ご主人さまが踊りながらやってきました。
朝のご主人さまは、
落ち込んだり
ご機嫌になったり、
日によって気分が大きく変動するのですが、
今日は最高にご機嫌のようです。
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「やったぜ、ツバメちゃん!
気分は世界征服だ!
この喜びを誰かに分かち合いたい!
もう、最高、ハッピーっ!
私は長い苦しみから
開放されたのだ!」 |
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「にゃあ」 |
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「おおっ、ハンニャマン!
おまえいたのか、
いつもいるぜ!
だって
猫ちゃんは、
私の猫ちゃんなのさ、
わはっはっはっ、
可愛さまさに世界一。
飼い主の私も世界一なのだ!」 |
猫であるぼくだけでなく、
日本語を解する人間様であろうと
言葉の意味を
理解するのは困難ではありますが、
大喜びの感情を
全身で表現しているのは分かります
ご主人さまが嬉しいと、
ペットのぼくも嬉しくなります。
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「ねぇねぇ、
聴いて、見て、触って。
私はついにやったのだ!」 |
そんなとき、
ブーっ!
と玄関のベルが鳴って、
鍵を開ける音がしました。
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「おはようございまーす。
ナツミさん、起きてますか?」 |
ご主人さま以上に
ぼくの世話をしてくれる、
大家の娘であるカナメでありました。
彼女は家の合い鍵を持っていて
我が家のように入ってきています。
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「おおっ、カナメちゃん!
ちょうどいいところに!」 |
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「うわわっ!
ナツミさん!
なんで下半身丸出しなんですかっ!」 |
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「カナメちゃん、カナメちゃん。
わたしが生みしビックショーを見てよ。
もうね、すっごいんだよ。
これはまさに史上最強の衝撃作なのさ」 |
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「すでにわたし、
とんでもないの見てるんですけど!
なんでパンツはいてないんですかっ?
隠してください! 早くっ!」 |
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「同じ女同士、
気にすることないんだよ」 |
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「気にしますっ!
信じられない!
そんな堂々と、とんでもないの見せて!
隠そうともしないし、
しかも見せようとする勢いだし!
なんですか、あなたはっ!」 |
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「カナメちゃんだって
ついてるものじゃん。
別に恥ずかしがることないんだよ」 |
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「恥ずかしいですよ!
ナツミさんも恥ずかしがれ!
わたし、他人のなんか見たことないですし、
見たくもありませんっ!」 |
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「ついてる?」 |
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「なにが?」 |
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「生えてる?」 |
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「うるさいな!」 |
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「分かってるじゃん」 |
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「分かりません!
特に、
ナツミさんの思考回路が分かりません!」 |
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「それはともかく、
来て見て触ってだよ」 |
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「な、なんですか、
その前にパンツぐらいはいて…きゃっ!」 |
ご主人さまはカナメの腕を取ると、
ユニットパスに連れて行きました。
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「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁーーっ!
なんてもの見せるんですかっ!」 |
カナメの巨大な悲鳴とともに、
水が流れる音がします。
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「あああああああああああっ!
私の最高傑作がーーーーっ!」 |
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「なにがケッサクですかっ! 汚いだけです!
クッサクですっ!」 |
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「いま、上手いこと言えたと思った?」 |
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「別に。
つーか、んなバッチィもん見せるな」 |
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「ウンターマのはいつも見ているじゃん」 |
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「だから、タマキチ。
タマキチはいいんです。
トイレの後始末は
飼い主の仕事なんですから。
人間のなんて、
見るもんじゃありません」 |
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「カナメちゃんだってするじゃん。
どこぞのアイドルじゃないんだよ」 |
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「いや、どんなアイドルでも
生きている限りは
そーゆーのはするわけでして。
人に見せるなんて、もってのほかです」 |
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「でかかったでしょ?」 |
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「なんでそう自慢げなんです。
思い出したくもありません。
記憶からも水に流します」 |
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「カナメちゃんは、
便秘のつらさが分からないから、
そう言えるんだよ」 |
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「そりゃ、分かりませんけど…」 |
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「普通は、たくさん出たねって
喜び合うものなんだよ。
そうやって、友情が芽生えるんだよ。
これ、大人の世界の常識」 |
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「んな、友情いらんわ。
つか、どんな大人の世界ですか。
ナツミさんの頭の中だけにしてください」 |
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「便秘は生みの苦しみに等しいよ。
でっかいのがでると、
おぎゃあと生まれた赤ちゃんのように、
良く出たね可愛いって、
キスしたくなるほどなんだ」 |
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「マジですんなよ。
実際やってるなら、
わたし、タマキチ連れて出て行きます」 |
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「物の例えだよ。
わたしはこそまでヘンタイじゃないよ。
チュウするのはカナメちゃんにだよ」 |
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「わたしにもするな。
タマキチ飼うの許可したとき、
いっぱいキスされて…。
あれ、トラウマなんですからね」 |
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「わたしね、
柔らかくて、可愛いのが好きなんだ。
カナメちゃんは、ドストライクなんだよ」 |
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「そーゆーのは、
タマキチにしてください…。
もう、いつまで丸出しなんです。
いい加減、パンツはけ」 |
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「あっ!」 |
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「なに?」 |
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「私、お尻拭いてなかった」 |
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「早く拭けっ!」 |
カナメは
ご主人さまはユニットバスに押し込めると
力強くドアをしめました。
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「疲れる。
な…なんなのこの人…」 |
ぼくのご主人さまであります。
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2話
第2回『英語なんてディスイズアペン!』
に、つづくであります
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