第1話
1回『ぼくのなまえ』






吾輩は猫である。名前はまだ無い。

 明治のむかしむかしの時代に生きた先輩猫さまのように、
ぼくも猫なのであります。

名前はといえば…



「じゅげむ〜」
「いや、タマキチですから。
いい加減、
ちゃんとした、名前で言って下さい」
「ごんざれすー」
「だから、タマキチ」
「ちゅんすけー」
「た・ま・き・ち・!」
「たまきーんっ」
「ええかげんにせいっ!」
「でもさ、
なまえは、
いっぱいあるほうが、面白いじゃない。
ホーホケキョも、
なまえ、いっぱいで、うれしーってさ。
ねっ?」
「にゃあ」
「ほらほら〜。
トコロジョーンも喜んでる」
「たんに、
呼びかけたから反応しただけです。
意味は分かってません」
「そんなことないよ。
アシタノタケノジョーは、
日本語を理解できるすごいネコにゃんなのは、
ご主人さまのわたしには分かっているのさ」
「だから、タマキチ…。
もう、数秒おきに名前を変えてたら、
この子も混乱するでしょ。
ナツミさんは、
ハナコとか、マル子とか、ワカメとか、
呼ぶたびに、
ちがう名前言われて、嬉しいですか?」
「うれぴーよ。
わたしは、今日は、
ビートタケンバに、
なるよ。
だから、ビータンって呼んでくれるかな?」
「…ナツミさん」
「やだなぁ、
わたしの名前は、
サカジョウハルッペだよ」
「ナツミツバメでしょ。
ナツミさんって、
子供が出来たら、
とんでもない名前を付けそうで心配です」
「平気だよ。
わたし、赤ちゃんできたら、
なんにするか、
ちゃんと決めてるもん」
「なんですか?」
「タマキチ」
「それは現在、飼っている
ネコの名前です。
人間につけたら、いじめられますよ。
まったく、この人は…。
タマキチ、
困ったご主人さまで、大変だね」
「にゃあ」
「ほら、
タマキチも同意しています」
「カナメちゃん、
それは単に反応しただけなの。
ネコは日本語を理解できないのは、
わたしでも分かるよ」
「さっき、
自分で
タマキチは日本語を理解できるすごいネコって、
言ってたじゃないですか」
「カナメちゃんは失礼なこと言うね。
わたしだって、学習するんだよ」
「じゃあ、
この子の名は?」
「ジャンキー・プー」
「ターマーキーチーっ!」

そんな訳で、
ぼくの名前は、
 ご主人さまの気まぐれで、
コロコロと変えられるのですが、
他の人間のみなさまからは
タマキチと呼んでくれるので、
それが本当の名なのでしょう。



「タマキチ!

この子は、
タマキチなの!

いいっ!?

ほら、ちゃんと名前を書きましたから、
正しい名前を、
使うっ!

分かった!




漢字で表すと「玉吉」となります。
ご主人さまに理解できるよう、
大家の孫娘のカナメが、
書道ででっかく、
『玉吉』
書いた紙が、
部屋にでんと、貼ってありますので
確かな事なのです。



第2回『生まれたときのことは…』
に、つづくであります




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